プライベートは、決して不幸ではありませんでした。信頼できるパートナーがいて、朝まで呑み明かせる友達もいる。客観的に見れば、私は「手に入れるべきものは手に入れている」人なのかもしれません。
けれど、一歩外に出て「仕事人としての自分」に向き合った瞬間、猛烈な足踏み感に襲われることがありました。
スマートフォンの画面をスクロールすれば、自分より若い世代が起業し、新しいビジネスを立ち上げ、時代の寵児としてスポットライトを浴びている。それを見るたびに、胸の奥がザワつくのを感じていました。
「私、このままでいいんだっけ?」
「私のポテンシャルは、こんなところで収まっていいはずがない」
仕事において、どうしても拭えない「何者でもなさ」。 プライベートが満たされているからこそ、その空白が際立ち、自分を否定されているような焦燥感に変わっていったのです。
「人生の1/4の危機」——クオーターライフクライシスという洗礼
実は、この正体不明の焦りには名前があります。
「クオーターライフクライシス(Quarter-Life Crisis)」。
20代後半から30代前半にかけて、人生の約4分の1を過ぎた頃に訪れる心理的な停滞期のことです。「このままでいいのか」という漠然とした不安や、理想と現実の乖離に苦しむこの現象は、今や現代女性の多くが通る、ある種の「アイデンティティの脱皮」とも言えるプロセスです。
幸福の条件は揃っているはずなのに、なぜか満たされない。その「贅沢な悩み」と切り捨てられがちな感情の裏側には、私たちがプロフェッショナルとして、あるいは一人の人間として、より高く飛ぼうとするための強いエネルギーが隠されています。
この記事では、仕事に特化したこのクライシスの正体と、その終わりなき問いとどう共存していくべきか。今もなお格闘し続けている私の現在地をお話しします。
1. 「もっといけるはず」という、愛すべき呪い
クオーターライフクライシスの真っ只中にいる時、私たちを一番苦しめるのは、他人からの評価ではなく「自分自身への期待」です。
「私にはもっと可能性があるはずだ」という自負は、本来ポジティブなエネルギーのはず。
しかし、それが現状の自分をジャッジする「刃」に変わってしまうことがあります。友達と楽しく飲み、愛する人と過ごす時間は十分にある。けれど「もっといけるはず」という自分への期待値が、順調なはずの毎日を「停滞」だと定義させてしまうのです。
この焦りは、あなたが怠慢だから起きるのではなく、自分の可能性を誰よりも信じているからこそ起きる、知的な拒絶反応なのだと、私は思います。
2. SNSという鏡に映る「仕事の正解」との距離
仕事帰りに本屋へ立ち寄り、ビジネス書の棚を端から眺めていたあの頃。私の焦りを増幅させていたのは、やはりSNSという鏡でした。
起業、バイアウト、リーダーシップ――。 流れてくる同世代の「仕事のハイライト」は、どれも眩しく、それと比較して自分のキャリアがひどく地味で、目的地を失っているように見えてしまった。
けれど、そこで見えているのは他人の物語に過ぎません。私はいつの間にか、他人のために仕立てられた「成功」という肩書きを、無理やり自分に当てはめようとして息苦しくなっていたのです。キャリアに「全員が目指すべき単一の正解」など存在しないはずなのに。私は自分のサイズも確かめずに、社会が用意した既製品の成功に、自分を無理に合わせようとしていたのでした。
3. 「問い」を終わらせるのではなく、昇華させるための知性
大学院に通って、いろんな知識をつけた今でも、全ての不安が消え去ったわけではありません。SNSを開けば指が止まり、焦燥感に襲われる夜はあります。ただ、その「焦り」との付き合い方が少しだけ変わりました。
学びという「知性」を手に入れることは、不安を消す魔法ではありません。むしろ、この漠然とした焦りの原因は何なのか。それを自分に問い続け、客観的に自分を分析しました。問いを終わらせるのではなく、問い続けるための知的な体力をつけたのです。

また、物理的にSNSを見る時間を減らしました。 もちろん、ニュースやトレンドを追うために使用はしていますが、過剰に自分の感情が持っていかれないように。情報の波に呑まれるのではなく、あくまで自分が主体となって道具を使いこなす。そんな意識を持つことが、私なりの防衛策になりました。
4. 終わりのない「衣替え」を楽しみ続ける
「このままでいいのか」という問いは、プロフェッショナルとしてあなたが次のステージへ進もうとしているサインです。
20代の頃の情熱だけでは乗り切れない、30代からの「知的な深み」を纏う時期が来たということ。今感じている焦燥感は、あなたが今の自分に満足していない証であり、それは表現者やビジネスパーソンにとって、一生抱えていくべき愛すべき「業(ごう)」なのかもしれません。
そのエネルギーを、誰かの活躍を羨むことに使い果たすのではなく、自分をアップデートし続けるためのガソリンに変えていく。
正解のない仕事人生だからこそ、私たちは何度でも「自分にとっての正解」を書き換えていい。その揺らぎこそが、あなたのキャリアを誰とも似ていない、唯一無二のスタイルにしていくはずです。
LITERA MODE 編集部
「このままでいいのか」と問い続けることは、自分を見捨てていない証拠です。
その不安を無理に消そうとするのではなく、知性という名の新しい装いを纏って、共に歩んでいく。完璧な答えを出そうと急がず、揺れ動く自分さえも「スタイリング」の一部として楽しむ強さを、持っていたいものです。
